【自力】 GPUリボール再実装 VAIO FZ51B と Qosmio F40

リボール FZ51B

画面が映らないという症状の原因は、グラフィックチップの半田不良(クラック)が多いのが現状です。チップの発熱により、自らが膨張収縮、基板と繋がる半田ボールに亀裂が入ったり、外れてしまうために通電不具合を起こします。多くは冷却用のファン排気口にホコリが溜まり、チップが異常発熱を繰り返した際に発生します。

当方では、通常、チップを剥がしてリボール(半田を植え付ける)、再度基板へ実装する修理は、基板リワーク専門の会社へ委託しています。今回は「リボール再実装修理」をご希望のお客様向けに、どのような作業を行うのかを当方で実演、ご案内を含めた記事となります。

※実装会社とは手順や手法が多少異なります。また、通常この修理は当方では行いません。

SONY VAIO VGN-FZ51B 画面が映らない・再発

リボール FZ51B

こちらの機種FZ51Bは、以前実装会社にて再実装修理を施工、その後再発、再々発してしまったものです。

再々発の対応として、当方でリフロー加熱(加熱により半田を融かす)を行いましたが、加熱温度が高かったためか画面表示が復帰しません。半田ボールがブリッジしてしまった可能性があります。

扱いやすいnVIDIAのIC、ダメで元々、当方でチップのリボール・再実装をすることになりました。

グラフィックチップ(GPU)はマザーボードに半田で直付けされています(BGA)。ソケットのあるCPUのように、簡単に取り外しできるものではありません。そもそも交換する事を前提としていないパーツです。

リボール FZ51B

まずはチップ周りを耐熱保護、基板の反り防止のためガッチリ固定して基板全体を予備加熱、そして局所加熱でGPUを取り外します。当方では赤外線での加熱になります。

※実装会社ではホットエアーでの加熱、また、この施工前に、ボイド防止のためのベーキング作業(基板の乾燥)を行い、水分を飛ばします。ウチには設備がないので出来ません。

リボール FZ51B

チップを外した後の基板側。半田の残留があるので、熱いうちに半田ごてとウィックを使って取り除きます。

リボール FZ51B

基板のパッド破損防止のため、熱が冷めやらぬうちにやるのが好ましいです。

リボール FZ51B

綺麗になりました。

リボール FZ51B

外したGPU、nVIDIAのG86-750-A2です。

リボール FZ51B

こちらも残留した半田を取り去ります。

リボール FZ51B

専用のステンシル(テンプレート)を使ってチップに半田ボールを配置します。

リボール FZ51B

半田のボール径は0.6mmを使用。融点が低く柔軟性のある共晶半田です。

リボール FZ51B

BGA用のフラックスを塗った後、半田ボールを流し込みます。

リボール FZ51B

ステンシルを外して、ずれているボールを手作業で定位置に戻します。まだ乗っかっているだけなので、衝撃を与えてしまうと一からやり直し。

リボール FZ51B

半田ボールが融解するまで加熱して、チップの各ランドに半田ボールを固定します。

リボール FZ51B

基板にフラックスを塗り、再生したチップを載せます。結構アバウトな位置決めでも、半田が融ければセルフアライメント効果で定位置に吸着します。

※実装会社ではボールと基板間にクリーム半田を塗布して未半田防止(方法は企業秘密のようです、ゴクリ)。この作業も当方では出来ません。

リボール FZ51B

赤外線でのリフロー加熱により半田を完全に融解、チップを再実装しました。

リボール FZ51B

ひとまず動作確認のため仮組み。

リボール FZ51B

電源ONで…きました。復活です。

リボール FZ51B

起動が確認出来ました。チップの膨張収縮を抑えるため、4角にコーナーボンドを塗布します(発熱による膨張収縮が半田クラックの原因となるためです)。

※この作業は実装会社では行えません。

リボール FZ51B

加熱処理でコチコチに固まります。ちなみにこれを外すのは非常に困難です。

リボール FZ51B

本組みしてWindowsの正常起動を確認しました(HDDは当方のテスト用を使用)。

リボール FZ51B

一度はあきらめた基板、感慨深いものがあります。

TOSHIBA QOSMIO F40 画面が映らない・再発

リボール Qosmio F40

こちらは以前、割り切り修理をした個体。すぐに再発してしまったらしいですが、別の機種のご依頼をいただいたついでに送ってもらいました。

しかし、加熱しても画面が出ません…。チップが死んでいるかも。たまたま時間ができたので、こちらも再実装にトライしてみました。

まずはチップ周りのボンドを剥がします。GPUはnVIDIA G84-600-A2、もっとも故障の多いチップです。

元の半田はPbフリーなので、融点は220度弱、取り外し時の温度はかなり高めに設定します。

リボール Qosmio F40

外したチップ。こちらは使いません。

リボール Qosmio F40

基板を清掃。

リボール Qosmio F40

別の修理でG84-603-A2へ交換した際に外した600を使用してリボールしました。

リボール Qosmio F40

載せます。

リボール Qosmio F40

同様に赤外線でリフロー。半田ボールは共晶半田、融点は180℃強。

リボール Qosmio F40

この時はチップ周りの基板の温度が205℃になった時に、チップが「ストン」と沈み込み、基板と合体しました。

温度管理はPCで行います。加熱する基板や半田、チップによりそれぞれ違ったプロファイルを使用します。

リフロー

仮組みでQosmioのロゴを確認。

リボール Qosmio F40

コーナーボンドを塗布して再加熱、チップを固定します。

リボール Qosmio F40

再発防止のため、再実装には出来るだけ新品チップの利用をお勧めしております。新品チップにはPbフリー半田が付いていますが、共晶半田にリボールして使用します。

新品GPU

非常に手間も時間も掛かる作業ですが、メーカー修理のマザーボード交換よりも安価に修理することが出来ます。ただ、どれくらい持つかは使う人次第、GPUに負荷を掛けない使い方、ホコリを溜めないなど。

以上、GPUのリボールと再実装とはどのような作業なのかの説明記事でした。

★2016年3月を以て、グラフィックチップの修理は、受付を終了しました。データ救出は対応可能です。

【2020年追記】

2020年現在の今でもチップのリフロー、リボールの修理問い合わせがあります。しかしながら、2016年以降、頑なにお断りを続けております。発熱部品なので、必ずいつかは再発します。過去、延べ1,000台近くは修理したと思いますが、時が経つほど再発率は上がっていった経緯、データがあります。

当時の世代のnVIDIAのチップは、デベロッパ、PCメーカー含め、GPU素材に問題があることを認めており、どこをどうやっても再発は避けられないことを悟り(委託した専門会社でも、当方のリフロー施工でも再発率に関して差は無かった)、修理を中止したのです。また、AMDのチップセットは信じられないほど耐久が低かったです。

何より、リスクの事前説明はあるとは言え、再発した時のお客様への申し訳なさ、再発連絡に怯える毎日はストレスが溜まるばかりでした。お断りした件数はかなりあり、当初の売上は当然落ち込みましたが、気分的にはものすごく楽になったのを覚えています。

もう大型リワーク機、プログラミング用PC、それに関する治具や素材も手放しました。ネットで知り合った方に無償で全てを差し上げました(研究用?)。もうやろうと思っても出来ません。最近まで頻繁に壊れたPS3を持って来ていた後輩ゴメン。

★なぜバンプ(半田)のクラックが起きるのか?今思う、私の自説。

最上部にも書いていますが、BGAは大量の半田ボールを融解し、チップと基板を繋いでいます。GPU、CPU、チップセットなどのパッケージ部品、及び基板(マザーボード)は、起動すればそれぞれ発熱し、温まれば膨張、冷えれば収縮を繰り返します。

チップと基板の膨張率には当然差があります。その差の積み重ねで、クラック(多分半田が外れて未通電箇所が出る)と思っています。新品時には、それを抑えるためにチップの四角に強力なコーナーボンドが塗布されていますが、それを押し負かしてでも膨張している、ということは、やはり再発は避けられないと考えていました。

ただ、時代は流れ、チップの素材も変わり、こういった不具合を起こす機種も現在では、ほとんど無いのでは?と思います。近年のパソコンでは全く問い合わせが無いので。

ちなみに、現在でも動画サイト等で、GPUの修理をされている方がいらっしゃいますが、半田が融けていなければ、単純に半田が一時的に膨張して通電しているだけで、冷えて収縮すれば再発します。オーブンで焼いたり、ヒートガンを当てても、しっかりと半田が融けて結合していなければ無意味です(半田が融ければ煙が出ます)。一時的復活ならドライヤーで十分ですよ。ネタとしては面白いですが。

長々書いてしまいましたが、これにてこの記事は完結とします。

今となっては良い思い出、貴重な経験です。復活したお客様には喜んで頂き、再発してもクレームを言われる方が皆無だったのは、良いお客様に恵まれた証拠です。

儲け優先主義であれば、今でも続けていたかもしれません。性格的に私はダメだったので、これで良かったと考えています。